03.アスファルトのひび割れから元気にHello!
「携帯に何回かけても出ないし、時間になっても来ないし!」
「それは大変なご迷惑をお掛けしました……」
場所は変わって、リビングルーム。
あれから夏美に続いて歩いて行けば(後ろからはピコピコという足音と共にクルルも来た)、
何故か小さな冷蔵庫から出てくることになり、そこがタイチョーさんとやらの部屋だそうで、
は頭にハテナを浮かべていたが、詳しい説明もないままここへ来たというわけだ。
夏美による説明によれば、隊長さん率いる宇宙人ら計5名(匹?)と、
それから1人(可愛い女の子だそうだ)は地球を侵略しに来たそうなのだが、
なんと日向家が(主に夏美が)捕虜として彼らをひっ捕らえ、
現在この家に一緒に住んでいたり(約2名ほどは別な場所が拠点らしい)するという。
そしてここからが重要なのだが、今年の春からもこの従姉弟である日向家にお世話になるそうだ。
そんなこと何にも知りませんでした今初めて聞きました。
の心境である。一切何も親からそんな話は聞いていなかった。
両親は数日前、日本を立ったきり連絡も特になかったはずだ。
どうして突然そんなことになっているのか。理由は二つ。
親が海外出張で日本を離れてしまったので、一人暮らしでは危ないということ。
さらに受験に受かった高校は、家から通うよりここから通う方が近いということ。
の知らない間に、親はこんな重大なことを勝手に計画していたのだ。
そんな心配りは助かるが、せめて本人にそれとなくでもいいから言って欲しかった。
で、秋さんも居候案に賛成してくれて、本日駅まで夏美が迎えに行くようになっていた。
他の大きな荷物は後で送るようにと頼んだらしい。
しかし、待ち合わせの駅で待てど暮らせどが来ない。
家にいる冬樹に連絡したところ、今日は侵略者の皆さんが大人しいとのこと。
(静かなときほど色々と企んでいるみたいだ)
きっと奴らがに何かしたのだと考え、超特急で家まで戻り、
隊長さんに問いただしたら軍議に一人だけ不参加な奴がいると吐いた。
絶対そいつの仕業だ。夏美はクルルの部屋(ラボというそうだ)を攻撃目標に定めた。
本人はこれら全てを聞くまでちんぷんかんぷんだった。
ぶっちゃければ聞いてもちんぷんかんぷんだ。
まさか従姉弟が宇宙人を捕虜にして、(←ここが何より驚きだよな)
そんでもって同じ家に一緒に住んでいるなんて。
「じゃなくてクルルが謝りなさい!アンタのせいよ!!」
「人の嫌がることをすんのが俺の趣味でなぁ」
そして冒頭に戻るというわけだ。
「趣味だろうがなんだろうが、悪いことをしたら謝るもんでしょうが!」
「俺は悪いだなんて思っちゃいねぇぜェ」
これは喧嘩するほど仲が良いと仮定してもいいのかどうか。
疲れ切った目で二人のやり取りを観察する。
人間と宇宙人の会話観察日記。(なんで日記?)
(…………あ、)
そんなオカルトなことを考えていてふとは思った。
オカルト。オカルト。日向家のオカルト少年。
(……冬樹)
彼の存在を思い出し、ついでにその昔宇宙人の有無について語られたことを思い出し、
日向家に宇宙人がいることについては、さっぱり異論はなくなった。
宇宙人だなんて、きっと見た瞬間に目を輝かせたことだろう。
実は世間渡りが上手い彼のことだ。
色々と言い負かして、宇宙人を自分の家に住まそうとしたのかもしれない。
ともかく、彼のこれまでやってきたことは偉大だと今ここに認めよう。
が冬樹を思い出すだけで、全てを納得したくらいなのだから。
だが、きっとここで気持ちが安心したのだ。
だからそれまで宇宙人という単語及び存在に、ぐるぐると頭を悩ませたりしていたが、
悩むべき事実はまだまだ他に山ほどあるとは気付いた。
「つーか、荷物。着替え、とか……どうしよう」
ぼそりと呟くそれは、声が小さいことが逆に切実さを見事に表していた。
そうなのだ。冷蔵庫からまさかのワープで突然ここへ来てしまったは、
居候に必要だと思われる最低限の必需品すら持ってきていない。
一度家に戻りでもしなければ、この家でお世話になるとしても無理というものだろう。
今すぐ帰らなきゃ、と悩むは、何に悩むといえば靴すらないことだった。
しかも加えて金もない。つまりは家にすらも戻れないのだ。
「心配いらねぇ」
いつの間に近くへきたのか、クルルがテーブルの上に乗っかってを見上げていた。
(テーブルに乗ってもこの高さ……)(小さい……)
夏美が怖い顔でクルルを睨んでいる。(それに動じないクルルは凄いと思った)
しかも彼女は正面でいるので逆にが睨まれている気分だ。(とても怖い)
目の前の彼に、ポンと軽い何かを渡された。――の携帯電話だった。
自分の家の、しかも自分の部屋に置いてきたはずの携帯だ。
付いているストラップが何よりの証拠である。
本日何度目かわからない驚きに、思わず携帯とクルルを交互に何度も見てしまった。
「開いてみろ」
そう促されてようやく、気付いたようには携帯を開く。
新着メール 一件あります
待ち受け画面にはそんな表示がされていた。
届いていたメールを開けば、それはなんと両親からで。
内容を見てみれば、腹の立つような長々しい挨拶から始まって、(UZEEE!)
こっちはすごく楽しくやってるよ的な内容の感想文がぐだぐだと続き、(いらん!)
そして最後にある追伸に本題らしきものが書かれていた。(追伸に一番重要なことを書くな!)
『追伸:今日から日向家にお世話になりなさい。
夏美ちゃんが奥東京駅で待っててくれてるはずだから。
荷物は特に持っていかなくて平気です。とにかく行けばOK。
詳しいことは宇宙人のクルルに聞いて。じゃあね』
「…………あ゛?」
詳しいことは宇宙人のクルルに聞いて。
詳しいことは宇宙人のクルルに聞いて。
詳しいことは宇宙人のクルルに聞いて。
頭でそこだけ三回くらいリピートした後、文章にあった彼のことを見る。
ぐるぐるの眼鏡が怪しく光り、極めて裏のある笑いで言い放った。
「俺に任しとけば問題ねぇよ」
この台詞に夏美が即座にツッコミを入れたのは言うまでもない。