スタスタスタスタ

長い長い廊下を規則正しく歩く音がする。

ピタッ

それは1つの部屋の前で止まった。


「やばい………」





待ち人




約束の時間はもうとっくに過ぎている。
カチカチと鳴る時計が今はとても五月蝿くてしょうがない。
一時間くらい前には日向家に来たのを確認した。
インターホンを鳴らす姿がモニターに映ったのだから。


(まだ来ねぇのか?)


隊長の部屋からこのラボまではそれほど距離はないはず。
普通にくれば5分もかからない場所にある。
いくら夏美、冬樹らと世間話をしていようともこんなに遅いのはありえない。
少なくとも約束を守らないヤツではなかった。忘れているなんてなおのこと。


(おかしいぜェ……)


絶対に口には出さないが、内心気になってしょうがない。
そして当の本人はたとえそれを他人から指摘されても認めない。
まったく困ったカエルである。(うるせぇ)
とにかく一旦作業中の手を止め、基地内全ての監視カメラを表示させた。
目的の人物はいとも簡単に見つかった。
ラボからは遠く離れた、ドロロ兵長の茶道室で足を止めていた。
その部屋に入るつもりはないらしい。が、かといって引き返すつもりもないらしい。


「………何してんだぁ?」




一方、茶道室の前で固まっている者は、実は困っていた。
歩けど歩けど終わらない長い廊下を歩ききって(誰だこんなに無駄に長くしたのは!)、やっとの思いでたどり着いたかと思いきや、それは目的地でもなんでもない部屋で、しかも行き止まり。

また戻らなくてはいけない。
目的地を探さなくてはいけない。


「ハァ……」


ため息だってもう何度吐いたかわからなかった。
昨日一方的に黄色いカエルと約束した(それって約束か?)(うっさい)時間は今から30分前のこと。
オーバーしすぎだろ、そう自分に突っ込んでもむなしさがが残るだけ。
今考えてみれば、こうして地下基地を自分の足で歩いたのは初めてだった。
こんな広いなんて聞いてなかったし知らなかった。(誰か教えろよバカ!)
ケロロの部屋を出て、歩く歩道に乗って“楽チン〜”なんて思っていたのに。


騙 さ れ た !(誰も騙してない)


こっちの長ったらしい廊下は動かないしね!
しかも行き止まりだしね!
案内板でも付けとけってんだコノヤロー!


「ちくしょう……戻るか……」


吐き捨てるように言った呟きは(ガラが悪いな)、周りに少しだけ響いて消えていった。



あぁなるほど、つまりは迷子か

確かにいつもは落とし穴だの異空間移動装置(要はワープ)だの使っていた。
ふと思えば常に自分が(半ば無理矢理)相手をここへ連れてきていた。
昨日一方的だった約束を受ける気になったのは、その前に言われた台詞があったから。


『明日は私が自分でここに来てやるんだから!』

ザマーミロ、とでも言いたげな口調は逆にクルルにとっては嬉しいものでしかなかった。

『やってみろよ。ク〜ックックック』

意気込んでワープして帰ったその姿を見て、彼が明日を楽しみに思ったなんてことは誰も知らない。

モニターに廊下を歩き始めた姿が映る。
果たしてここにたどり着くことが出来るだろうか。


「クーックックック!まぁ、しばらくは様子を見てやるぜェ」











――それから一時間後…


「つ、着いたぁー!!!」

「遅ぇ!」