素のままの自分が好きだと、そう告げてくれたから

(だが、オレも男だ!譲れねぇもんだってあるんだよ!)







人間誰しも弱点というものが存在する。
例えば虫であったり、ホラー映画だったり、ピーマンだったり。
その内容は十人十色、多種多様。
つまり、強面のマフィアでクーデターを起こしてしまうような某暗殺部隊ボスにも、
意外かもしれないが、苦手なものはあるということで。
しかしそういったものは、己が苦手とする一方で、得意(?)な人もいる。
今回の場合、彼女がそれについて何の苦手意識のないように。


「あーめーがー上がったよー、おーひーさーまが出てきたよー」
「現在進行形で降ってんじゃねぇか」


昔3チャンネルのテレビで歌われていた曲を口ずさめば、外の天気を見た彼がキレのいいツッコミを入れた。
窓を叩くように音を立てて降る雨は、この間学校帰りに降った雨とは勢いが違う。


「私には見えん」
「眼科行け」


本当に彼はここへ来てツッコミが上手くなった。
すっかり達人の域だ。
まぁ、それはさておき。

ザーザー

空が黒い。
日曜日の昼間だというのに、とてもそうとは思えないほどの暗さ。
風がそんなに強くないことが不幸中の幸いか。
雨の音だけでは恐怖を感じることはない。
もしかしたら家が壊れるんじゃないかという心配も、例えば何かが飛んで来て窓が壊れるんじゃないかという心配も。

ザーザー

しかしこんな風に雨の強い日には、決まって鳴りだすものがある。
インターホン?…まさか。こんな時に客人なんて滅多に来ない。
警報?…そりゃある意味そうかもしれないが。
両方ハズレだ。正解は―――


ピカッ!

「「!」」

「ザンザス見た!?今光った!」
「…………そうだな」

ゴロゴロ…

「わ、音が早い。これは近いね!」
「…………」

ビッシャァアアアアアン!!

「…!?」
「ウヒャー!どっかに落ちたー!!」

「……ん?」
「…………」


一人で盛り上がるに、無言でムッスーとしているザンザス。
うるさいとも、黙れとも、何も言わない。
しかし、雷が落ちた時の反応はまるで、そう――


「……ザンザス?」
「…………なんだよ」
「どうしたの。もしかして雷怖いの?」
「なっ、…んなわけねぇだろ!」
「へー。あっそう」


否定の仕方が怪しすぎだ。バレバレである。
彼はどうやら雷だけでなく、嘘をつくのも得意ではないらしい。
(ホントにマフィアか?)なんだかザンザスが属するファミリーが心配になってくる。
が、今のところは彼の面子の為にも、一応納得しておくことにしよう。

雨はまだ止まない。
彼の心を脅かす雷は、再び光り出す。

ピカッ!

「!?」
「おぉ、また光った」

「…………」
「ね、ザンz」

ゴロゴロ、ビッシャァアアアアアアン!!

「!!?」
「落ちるの早いねー」


ザンザスは雷が落ちる瞬間、おもむろに窓から顔を背けた。
両手は耳を塞ぎたいのを我慢しているのか、ピクピクと不思議な動きをしている。
これは決定的ではないか。


「ちょいとザンザスさん」
「……な、んだよ」


返事をするのにも時間が掛っている。


「やっぱ怖いんじゃん」
「怖くねぇよ」
「や、だってどっからどう見ても怖がっt」
「怖くねぇっつってんだろうが!!」


ザンザスの得意技が発動した。
その名も逆ギレ。
は動揺する素振りすら見せず(だってもういつものことだし)(慣れた)、ニヤリと笑う。


「そっかー。ザンザスにも怖いもんがあるんだー」
「違ぇ!!」
「なんか親近感だなぁ。うん、いいことだよアハハハハ」
「笑うな!!」
「つい、ね。ザンザスも人間だと思うと、顔が自然と笑顔になっちゃうんですよアハハ」
「笑顔どころか思いっきり笑ってるじゃねぇかテメェ!」
「アハハ気のせいだよザンザスくん」
「くん付けすんな!気色悪ぃ!」
「まさか雷怖いとはビックリだよなーアッハハハハハ。
 ザンザスと、そして雷。…ププッ」
「テメッ、噴くな!」

ピカッ!

「!!」


その瞬間、首がゴキッってなるんじゃないか、というほどのスピードでザンザスは窓を見た。
見かねたが声を掛ける。流石に可哀想になってきた。


「…カーテン閉める?」
「最初から閉めろ!!」
「だって雷見たかったし」
「見っ!?頭おかしいんじゃ、」

ゴロゴロビッシャァアアアアアアン!!

「!!??」


空が一瞬明るくなると同時に、シャーとカーテンを閉める。
表情も、行動も、ザンザスは全てが固まっていた。


「…段々近くに来てますねー」
「来んじゃねぇ!!」
「って、私に言われても…」


それから雷が遠くへ去って行くまで、ザンザスとは二人仲良く窓から離れた場所へ避難し、
他愛もない話をして時間を潰した。
空が光り、大きな音がするたびにザンザスの肩が上がったり、台詞が変なところで切れたりしていたが。








何時間か経過して、外はすっかりただの雨。
が良かったねと言ったが、ザンザスは中々同意しようとしなかった。


「……悪かったな。雷が苦手で」
「苦手の領域超えてましたけどお兄さん」
「うっせぇな」
「ま、いーんじゃないの?人間怖い物の一つや二つや三つや四つ、あるもんだよ」
「ありすぎだろ」
「雷怖がるとか。ザンザスも人間だなぁって感じですごく好ましいよ。
 苦手なもんがある方がいいよね、うん」


笑顔でそう言えば、ザンザスは目を見開いた。彼の返事はない。


「(コノマシイ?コノマシイってこのましいって…好ましい!?)」
「ちょ、オーイ。……大丈夫か?」
「(それってコイツがオレをすすすすす好きだってことに、)」
「もしもし?ザンザスくん?」


二度も無視されたは、笑顔のまま怒りマークを浮かび上がらせるという、実に器用なことをやってのけた。
しかしザンザスはそれに気づかない。


「いや待て!(そうだ落ち着いて考えろオレ!)」
「オメーの頭が待てだよ。思考ぶっとび過ぎだろ」


口悪く吐き捨てるように言った。
そこでようやくザンザスは思考をこちらへ戻し、を見た。
笑顔なのに、笑っているのは口元だけ。
彼女の目が光ったように見えた。ある意味雷より、怖い。


「(……ない。コイツがオレを、とか。ねぇな。絶対無ぇ)」
「ホント大丈夫?特に頭が
「……うっせぇよ(ちくしょう…)」


(何落ち込んでんの?)
は突然元気のなくなった彼がよくわからなかった。
頑張れザンザス!言葉にしなきゃ伝わらないぞ!(放っとけ!)