暖かいその光は、凍えた心をすっかり溶かしてしまった
(そんな話題が出るたびに緊張していたオレが馬鹿みたいだ)
一般的な学校という名の団体社会に通っていれば、嘘をつくくらい普通なことである。
そうでなければ、汚れた世の中を渡っては行けない。
嘘とは時に我が身を守り、時に相手をも守る。
も嘘をついたことがあったし、それを嘘だと悟られない程上手く騙せたりもした。
しかし、正直言って、彼は嘘をつくのが上手くない。
おそらく根が素直なのだろう。顔に似合わず良いことだ。
(どーせ私は捻くれてますよ)
どちらかといえば、彼の“嘘をつく”は“隠す”といった行為のように思える。
そのため非常にわかりやすい。
さらに、図星であったり、答えたくない質問にはだんまりを決め込むので、これまたわかりやすかった。
本当に、わかりやすいのだ。
ある晴れた日のこと。
この次に「魔法以上の愉快が」と続けば、某学園物SF小説の主題歌になるが、それは横に置いておいて。
晴れた日、ということでおわかりだろうが、実に天候が良い。
こんな青天の日には気持ちもスッキリ爽快になる。
現には大変いい調子で、外をスキップで出歩きたい気分だった。
それとは正反対に、じめじめとしていて、そのうちキノコでも生えてくるんじゃないか、と思えるくらい、暗い人がいた。
――紛れもない、ザンザスである。
彼はどうやら今日の天気が気に喰わないらしい。
(……雷が鳴り響いていても気に喰わない奴が何を言うか)
ザンザスの気分は晴れていないので、空ばかり青々としているのが不満なんだそうだ。
しかし、天候など人間の力でどうにかなるものではなく。
が気を利かせて、逆さてるてる坊主を作ろうかと言ったら一蹴された。
(言わなきゃよかった)
彼の願いは今一つ。天気よ曇れ、とのことだ。
そんな願い事は7月7日の七夕にでも、短冊に書いて飾っておいてもらいたい。
もしくはクリスマスにサンタに頼め。
誰よりも外に出掛けたかった。
彼女はひたすら家にいたいと言い張るザンザスに苛立ちを感じていた。
「ホント部屋にキノコ生えちゃうんですけど」
「そしたら喰えばいいだろ」
「食えるか!」
ザンザスは部屋のドアの前にどっかり座ったまま動かない。
「ともかくオレは今機嫌が悪ぃんだ!」
「……知ってるよ。だから私は一人で外行くからって言ってんじゃん」
「許さねぇ!」
「なんでザンザスの許可が必要なんですか?」
「オレが規則だからだ」
「……超自己中。オレ様主義」
「当然だろ」
「そこは自重してくれ」
テコでも動かなそうなザンザス。
真っ正面から彼を通り抜けて出て行ってもいいが、彼を一人の人間として認めている以上、
そんなことをしたくはなかった。
仕方なしに、そこまで反対する理由を聞いてみた。
「外は危険が多い」
「危険って……別にザンザスみたいな危ない人がいるわけでもないし」
「オレは別に危なくない」
「危なそうだよ。裏の世界に生きてそう」
我儘な彼に対する皮肉のつもりだった。
しかし、
「て、てめぇ知ってたのか!?」
ザンザスの思いがけない返事に、微妙な間ができる。
「……え、(マジすか)」
冗談のつもりだったんだけどな。
初めて知るザンザスの事実は、彼が裏の人間だということでした。
「イタリア出身だっけ? 何? マフィアなの?」
「あぁ(厳密には少し違うが)」
「へー」
特に拒否も否定もせず、軽く納得する。
むしろ、否定だのする要素の方が、見当たらないくらいだった。
ちなみにお出掛けという意識はの中からすっかり抜け落ちていた。
「……一般人のくせに、オレがマフィアだと知って何故驚かないんだ?」
「ケーキ屋営んでますって言われたら超驚くけど?」
「……(どんな例えだ)」
あっさりと自己の秘密に納得するを見て、ザンザスは少し困っていた。
半分以上、怖がられていないという嬉しさがあるのだが、
彼女はマフィアとして自分を受け入れている。
だが細かにいえばザンザスはマフィアに属する暗殺部隊なのだ。
マフィアと暗殺部隊とではまた印象も違うだろう。
とはいえ、それをに言わなければいけないという義務はない。
しかし、出来れば同じ知識を共有したかった。
問題はいつそれを切り出すかである。
「そもそもマフィアってなんだか知ってんのか?」
「裏社会の秩序?(適当) …知らねーよ」
「裏社会の秩序だ」
「合ってんじゃん!言い直すなよ!」
そこからザンザスはマフィアの決まり事とファミリーの構成と仕事について話し出し、
その後ボンゴレと歴代ボスやヴァリアーについて長々と語ってくれた。
表社会ではありえないような話、というよりは現代でもなお残る中世の考え方が主となっており、
とても興味深いものだった。
ザンザスが決死の覚悟で告げた己の暗殺稼業については、が一瞬表情を曇らせた。
――……死ぬなよ
だがそれは彼を心配するが故であり、のその言葉を聞いてザンザスは、大いに安心したのだった。
そこで一旦休憩が入り、次に彼は己についてに話してくれた。
その内容に、はただ相槌をうつくらいのことしか出来なかった。
そのくらい彼の話は重かったのだ。
――……話してくれて、ありがとね
最後にがそう言えば、ザンザスは辛そうに笑った…かに見えた。
話を全て聞き終わってから、はふと疑問に思う。
「つーか、一般ピーポーの私にそんなことベラベラ話しちゃっていいの?」
「お前がこれを誰かに漏らせば命の危険がある」
「隠し通せってか。他言無用ってかコノヤロー。 わかりましたよ」
遠まわしに脅されて、彼女は疲れた顔をした。
そして絶対誰にも言わないと、約束したのだった。