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そんな驚くべき再会
先日、私は学校に忘れ物を取りに行く時、不審者らしき強面のお兄さん(実は迷子だった)に出会いました。お兄さんは小石一つで転んじゃったりするような、外見と中身が思うほど一致しない人なのですが、……説明めんどくさくなってきたから、
気になる人は『そんな出会いから始まった』をお読みください。
(投げやり)
で、そんなお兄さんはですね(私はお兄さんの名前すら知らないんですけれども)、学校から私が帰ったら、……。こんな再開を一体誰が予測出来たでしょうか。いいえ、誰にも出来るはずなど御座いませんよ!むしろ出来てたなら、
当事者の私に教えろよアァン!?
って感じですよね。
お兄さん……
なんで私の家の前に突っ立っていらっしゃるんですか!
もう遠目からその姿を見つけたときは、ビックリドッキリガッツリパッチリでしたよ。まー、いるだけならア、コンニチワサヨウナラ(片言)くらいの挨拶でスルーすればいいじゃんと思うかもしれませんが
(実際そんな挨拶だと逆に喧嘩売ってるみたいですよね)
、それだけじゃないからそうはいかないのです。
お兄さんは元々(別に生まれたときとかそんなんじゃないです。私と出会った時という意味です)顔にキズがあって、これがまた怖そうなオーラに拍車をかけていたのですが、今回はなんと全身包帯だらけというわけでした。
ミイラといい勝負なんじゃないでしょうか。
そして顔のキズも心なしか増えているように思われます。にも関わらず、前のように肩からスーツの上着はしっかり掛っておりますが。私が言いたいのは一つ。
何があってそんな満身創痍なんですか!!?首から掌まで包帯巻かれてますけど!!
普通の人間なら驚きますし、知り合い(と言っていいのか些か不安ですが)ともあらば当然心配するわけです。
私も普通の人間です。
私の友達は包帯最高!とか言って隣のクラスの獄寺くんやら(彼も怖そうな感じの人です)、えーと名前が…野球部の…あ、そうそう山本くんとか(彼は野球部のエースです)に巻かれた包帯を見ちゃあ興奮する(こう言うと彼女は怒ります。ゲージが満タンになるという表現が好ましいようです)ちょっと変わった子ですが、
私は普通の人間ですから。
別に興奮とかゲージが満タンになったりとか(同じ意味ですけれども)しません。いいですか。しませんよ。
全然しません。
なもんで、お兄さんと目が合い、私の口から出た言葉は「コンニチワサヨウナラ」でも「お久しぶりです」でも「膝のお怪我はどうでしょうか」でもなく
(っていうか膝よりも大怪我してるし!)
、
「だ、大丈夫ですか?」
というものでした。前回と同じスタートな気がするのは気のせいではありませんよね…?お兄さんは私の問いに「問題ない」と簡潔に答えて下さいました。
この人、入院中に病院抜け出して来たんじゃないだろうな……。
あまりにもミイラなのでそんなことまで考えてしまいます。(あまりにもミイラってオイ)
「えっと、……どうもお久しぶりです」
「あぁ。あん時は世話になったな」
「いえ、大したことはしてませんよ」
ホントに大したことじゃない。同じ目的地まで行っただけなのだ。
「あの、お尋ねしますが、私の家に何か……?」
私がそう言うと(なんたってお兄さんは私の家の前に立ってるんだし)、お兄さんは片手をすっと私の方に差し出しました。今気付きましたが、お兄さんは両手に箱のようなものを一つずつ持っていました。箱はどちらとも薄いピンク色なのですが、そこがお兄さんとミスマッチで何だが面白いです。何が入っているのでしょう。
っていうか、受け取っていいんですかね、コレ。
「え、これは……」
「買ってきた」
いや、私は中身を聞きたかったんですけど。
「……(えーと)受け取っても?」
「あぁ」
私はお兄さんの片手から箱を一つ受け取りました。
「これもだ」
お兄さんはもう片方の手に持っていた箱も差し出しました。
「あ、ありがとう、ございます……?」
差しだされるがままに受け取りました。
結構ずっしりきます。一つでもずっしりだったのに、それが二つですから、それなりの重さです。でも何が入っているのか、よくわからな……わかりました。箱の隅に小さく印刷があります。これは並盛でも美味しいと評判のケーキ屋さんです。でも値段が高いとも評判です。私は以前一回だけ奮発して、ここのケーキ屋さんで買いました。高いだけあってとっても美味しかったのですが、その月は
異常に財布が寂しかったのを覚えています。
これらはそのケーキ屋さんの(おそらく)ケーキ……、クッキーとかじゃないと思いますが、一応確認してみましょう。
「これは…ケーキ、ですか?」
「あぁ」
お兄さんは頷きました。
「二つもですか? え、頂いてもいいんですか?」
「構わねぇ」
お兄さんは再び頷きました。
「うわ!あ、ありがとうございます!すごく嬉しいです!」
「……そうか」
お兄さんはフッと笑いました!
(うそ、超カッコイイんだけどどうしよう……)
でも冷静に考えると、たかだか学校まで案内してキズの手当をしたくらいでこんな高級ケーキ屋のケーキを(しかも二箱分!)貰ってしまっては割に合いません。割に合うほうがおかしいのです。……まさかとは思いますけど、
お兄さんはこのケーキを買うためにこんなミイラになってしまったとか……。
(※ミイラにはなっていません)いや、まさかね。まさか。ハハハ……。いえ、でも、小石一つで転んでしまう方です。ありえなくない事ですよね……。どちらにしろ、なんだか、悪いことさせちゃった気分だ……。
「あああ、あの!」
私は踵を返して去ろうとするお兄さんに声をかけました。お礼のお礼(このケーキはお兄さんからのお礼だと思っています)というのもおかしい気がしますが、何もしないのでは小波家の名折れです!感謝の気持ちは言葉と態度で示せと、幼少の頃より母から教わってきました!……とか言うとちょっと大袈裟ですが、ともかくアレです。ギブアンドテイク?いや違うな。等価交換?ああ、そんな感じです。
このケーキに合う分だけ、私もお礼をするべきなのである!
「良かったら家に寄って行って下さい!」
お兄さんはパチリと瞬きをしました。
***
家に入るときにようやくお兄さんの名前を知りました。母にお客さんだよと紹介しようとして、名前の時点で「……」となり、お兄さんの口から「ザンザスだ」と。ザンザスさん。日本の方ではないようですね。ところで、
苗字はないのでしょうか。
それはさておき、私はお兄さんの名前を知ってから、ザンザスさんと呼ばせてもらっています。
やはり強面のザンザスさんは第一印象が怖い人に当てはまるようで、最初母は少し怯えた様子でした。ですが、私が案内のお礼にケーキを持って来てくれたことを話すと、とても礼儀正しい人だと思ってくれたようです。
全身包帯だらけなのには、何故か母は一言も突っ込みませんでした。
甘い物が好きな私です。その為、ザンザスさんのケーキがとても嬉しく、ウキウキとお茶の準備をし始めたのですが、箱を開けてビックリしました。持った時ずっしりしたから、そこそこな量のケーキかとは思いましたが……。
ザンザスさんは全てにおいて私の想像を上回る人のようです。
転んだ時然り、迷子の時然り、再開の時然り、今回然り。なもんで、思わず私は聞いてしまいました。
「ざ、ザンザスさん……このケーキは、」
「どれがいいのか、わからなかったからな。ひとまず全種類買ってきた」
ホールケーキならまだしも(それだって凄いことですが)、
個別のケーキを全種類ですよ!全種類!
合計でいくつあるでしょうか!ケーキがこんなに、こんなにたくさん!……ザンザスさん、アンタどんだけ金持ちで太っ腹なんですか……!!ようやく箱二つ分の理由がわかりました。こんだけ買えばそりゃ二つ分にもなるでしょうよ。ええ。
「「…………」」
母と顔を見合わせ、しばしの間固まってしまいました。
「ケーキは嫌だったか?」
「ままままままさか!本当に嬉しいです!…でも、こんなにたくさん、」
「オレが勝手にしたことだ。気にすんじゃねぇ」
おおおお!かっこいい!!
「……ザンザスさん」
「あ?」
「超男前ですね!!」
「…………」
この時の私は非常にテンションが高かったと思うんだ。
今は反省してる…(雫の日記より抜粋)
「学校で何か変わったことはねぇか?」
「? 特にありませんけど」
「……そうか」
「はい。最近の並盛は落ち着いてきましたから」
「……最近?」
「ええ、ちょっと前はこの辺で並中生が襲われる事件があったんですよ」
「オイ、怪我は?」
「私に直接の被害はありませんでしたが、学校を欠席する人は多かったですね。
授業の進行に遅れが出て、学校側も大変だったようです」
「もうその事件は終わったのか?」
「どうなんでしょうね。犯人が捕まったという話は聞いてませんが、」
「だからまだ完璧に安全とは言えないんですよー」
台所で食事の支度をしていた母が、私の台詞を遮り、身を乗り出してそう言いました。
「そうだ!雫、ザンザスさんにボディーガードでもしてもらったら?」
何を言い出すんだこの母は!
そうだ、じゃねぇだろ!ちっともいいアイディアじゃないよ!
「そんなこと、どう考えてもザンザスさんに悪いでしょ!ダメだよ!」
「だが安全に越したことはねぇ」
うわー!乗り気だこの人!誰か止めろ!誰か!母、はダメだ!問題発生原因だ!ザンザスさん、は本人だ!しかも乗り気ときた!他に……
って私しかいねぇじゃねえかぁああああ!
「だ、大体ザンザスさんそんなに怪我してるんですから、安静にしてないと」
「これは完治寸前だ。大したことじゃねぇ」
嘘つけぇええええ!全身ミイラでどこが完治寸前だよぉおおお!
「不満なの?ザンザスさんが守ってくれるのは。その方がアンタも確実に無事でしょ?」
「私の無事よりザンザスさんの迷惑を考えるべきだと思われますね」
「オレは問題ない。引き受けてやる」
ホントに?!
問題ありまくりなんじゃないのか!!?ザンザスさん大怪我だぞ!?
「……医者から、リハビリも兼ねて歩いた方がいいと言われた」
「(安静にしてろの間違いなんじゃないのか?)」
「丁度いいじゃない。帰り、学校から家の付近まで一緒に歩きなさいよ」
「(え?何?強制?強制なの?)」
「決定ね。ザンザスさん、雫の帰り道。よろしくお願いします」
「あぁ」
「(決定されたー!強制だー!)」
それまでの私の心のツッコミ虚しく、最終的にはザンザスさんにボディーガードをお願いしました。
「明日から学校まで迎えに行く」
「……すみません。…大変ご迷惑をお掛けします」
でも明日も会えると思うと、ちょっと嬉しい私なのでした。