そんな休日と世界の狭さ(前編)



あれから(学校のある日は)毎日護衛をしてくれているザンザスさん。友人が初めて彼を見たとき、「何あの超怖い人!」と小声で私に言ったのは記憶に新しいです。カッコいいよね、と私が言うとすごく変な顔をされました。酷い。だから友人が包帯云々の話をし始めた際に同じような顔をしてやりました。そしたらなんと友人は私の頭に容赦なしの全力チョップをしてきました。痛っ!マジで酷いな!


ザンザスさんの大怪我は、やっぱりちっとも全然完治寸前ではないようなので(まーそうだとは思ってましたけど)、色々と心配です。例えば、石に躓かないで欲しいなとか。口に出せませんけど。そんな直球な言い方は出来ませんけど。言えるとしたら、お大事に、ぐらいですけど。でも少しですが包帯が取れてきたところを見ると、順調に回復の方向へ向かっているのでしょう。早く治ってほしいと思います。っていうか、むしろ安静にしていてほしいのが本音です。


ところで今日は休日なので学校はありません。でもザンザスさんに会えます。実はこの間オープンした駅前のカフェに一緒に行くのです。ケーキが美味しいとの噂を聞いてぜひ行きたいと思っていたところ、ザンザスさんがそれとなく誘ってくれました。紳士ですよね!相手は重傷なのだから気を使えよ私って感じですが、食欲と乙女心に負けました。っていうか、この誘いを断ることなんてどうやったら出来るとうのだろうか、いや出来るまい。この表現はこの間国語の時間に習いました!


話は戻りますが、ザンザスさんとは午後1時半に駅で待ち合わせです。とっても楽しみです。服選びに時間がかかりました。服がたくさんあるから時間がかかったのではなく、選択肢の少なさに絶望しながら選んでいたので時間がかかったのですよ!ここんとこ間違えないように!…さて、ではそろそろ家を出ないといけません。


そうして待ち合わせの場所に行こうと、ドアを開けたら……。
ちょっ!!待ち合わせの意味がない!!まるでない!!なんだこれ!!


……まぁ、その、なんだこれもなにもありませんが、お察しの通り、家の前にザンザスさんがいらっしゃいました。あの、私、確かに駅で会いましょうって言いましたよね?そしたら時間はザンザスさんが指定しましたよね?それでお互いに了解しましたよね……?あれはもしかしたら夢だったのではないかと心配になってしまいますよ、私……!!


「ど、どうしたんですか…。ザンザスさん」
「歩いてたらここまで来ちまった」
「…そ、そうですか」


ああもうすっかり忘れてました。ザンザスさんにはいつも驚かされるということを。護衛という名の下校時は、別に驚くようなこともあまりないのですが。あまり、ですよ。時々はあります。例えば、急にザンザスさんの携帯が鳴って、ザンザスさんが私に一言断った後それに出たら、隣にいた私の鼓膜も危なくなるほどの大きな声が電話の向こうでしゃべり始めて(本気で鼓膜破れるかと思いました)、それで怒ったらしいザンザスさんはその携帯を握りつぶしちゃったんです(というよりも燃えてしまったように見えましたが、携帯が発火したのでしょうか?ザンザスさんの手は大丈夫ですかね?)。このときは色々と驚きました…。ザンザスさんは私の鼓動を早める(乙女的な意味ではない)のが本当に得意ですよね。


とにかく待ち合わせの意味がなかったとしても結果オーライですね。目的は待ち合わせることではなかったので。カフェに行くことなので。ケーキを食べることなので。…って待ち合わせが目的ってどんだけ寂しいんだ!!


「では行きましょうか」
「そうだな」


気を取り直して、行ってきます!




***




「…結構、混んでますね」
「予約するべきだったか」


オープンほやほやですし、美味しいとの噂ですし、休日ですし。そりゃまぁお店も繁盛しますよね。私とザンザスさんがお店に着いた時にはすでに満席状態でした。ガヤガヤと賑わう声が聞こえます。私はしばらく待たなくてはいけないのかと少し肩を落とします。そんなとき、お店の人が気を使って声をかけてくれました。


「相席でよろしければご用意出来ますが、どうなさいますか?」

「え、ザンザスさん、いいですか?」
「あぁ構わねぇ」

「じゃあスミマセン。お願いします」
「かしこまりました」


相席だろうがなんだろうが、お店に入れればそれでいい気がするのはなんででしょうね。明らかに私の食欲が勝っている証拠以外の何物でもありませんね。私とザンザスさんは決してデートをしているわけではないので(そもそも恋人同士ではない)、絶対二人席じゃなきゃダメってこともないです。…あれ?でもそう考えるとお店の人もこの二人なら相席OKじゃね?って思ったんでしょうかね。それで声掛けてくれたんですかね。え、それはそれで微妙な気分ですね。ザンザスさん、私の保護者かなんかだと思われてるってことですか?確かに私は未成年ですけど。いやだからって保護者ってのは…。ねぇ?


「お待たせしました。こちらへどうぞ」
「あ、ハイ」


私の思考を遮るように例のお店の人が案内してくれたので、心の葛藤はそこで強制終了です。相席の人がいい人だといいなぁ。知ってる人だとなおいいけれど、優しい人なら別に誰でもいいです。っていうか知っている人(友人とか)はあまり優しくないので(むしろ酷い)(チョップしてくる)、とにかく優しい人でお願いします。と小さく祈ってみたりもしました。困ったときだけ神頼み。


「こちらのテーブルになります」


お店の人がそう言って去って行き、相席をしてくれた人は誰かと思ってテーブルを見ると少年1人、少女2人、子供2人という不思議な組み合わせのグループが座っていました。そこは大きなテーブルなので端の席が確かに空いています。私が案内された席の前まで行くと、ザンザスさんがイスをスッと引いてくれました。もう彼は本当に紳士です…!私は感動してザンザスさんを見上げると顎で座れとの合図がきます。すみません、感動のあまり中々体が上手く動いてくれないようです。


そうしていると座っていた彼らがこちらを見ました。私は相席のお礼を言おうと口を開いたとき、振り返った少女の一人は私の小学校の時の友人だったので彼女は驚いた顔をし、同じように振り返った少年は私とザンザスさんを視界に入れるとこれ以上なく驚き引きつった顔をしてイスから転げ落ちました。


ガタッ、ガタタタ、ドサァッ!


その比較的大きめな音を聞いて、空気がピシリと止まったと私は思いました。