そんな2月14日
今日は土曜日。カレンダーを見れば、バレンタインデーと書かれていました。本当ならザンザスさんにチョコを渡したかったのですが…。
時は遡ります。お正月は初詣に行ったら、たまたまザンザスさんに会えました。おみくじは中吉でしたが大吉以上のいいことがあったと感じます。お賽銭が頭にゴチゴチ当たって痛かったことも、忘れそうなくらい嬉しかったです。すごい偶然です。私は一緒に来ていた家族に告げ、少しだけ二人でお話しました。
「今、話すのもどうかと思うが、この機を逃すとしばらく会えそうにねぇからな」
「え……」
「しばらくイタリアに帰ることになった」
ザンザスさんの出身がイタリアだというのは以前から聞いていましたが、帰国されるそうです。ザンザスさんは冬休みが明けたときボディガードが出来ないことを申し訳なさそうに言いました。申し訳ないのは私の方です。これまでほぼ毎日帰り道を守って下さったのに、大したお礼も出来ないでいるのですから。
私がそう言うと、ザンザスさんは、気にするな、勝手にやっているだけだと言って目を逸らしました。耳が少し赤いように見えたのは、寒さ故でしょうか。そういえばザンザスさんはあまり防寒していないようでした。ホカロン、あげれば良かったかもしれません。
「ザンザスさん、あの、」
「これを持っていろ」
「へ?……あの、これは」
「例の事件の犯人は未だ不明だ。用心に越したことはねぇ」
そう言って私に何かをくれました。小さいのですが、重たい箱でした。前のようなケーキなどではないようです。箱の種類が違います。私は瞬きをしてザンザスさんを見ました。家で開けろと言われ、中身は教えてもらえませんでした。開ければわかるそうです。私は首を傾げながらその箱を頂きました。そんな私たちの横を可愛い女の子たちが何人も振り袖を着て歩いていきました。私はついついその人たちを目で追ってしまいます。お正月の振り袖、綺麗ですよね。それに気づいたのか、ザンザスさんは私に尋ねました。
「あの民族衣装は着ないのか?」
日本にいると特に意識していないものですが、海外の方からみれば着物って日本の民族衣装なんですね。
「いえ、生憎と振り袖は持っていないんです」
と、私は苦笑いで答えました。ザンザスさんはそうかと言うとそれ以上振り袖についてなにも言及しませんでした。ただザンザスさんもその女の子たちを見ていて、本当に少し、妬けました。
ザンザスさんとはその後お別れしました。イタリアでお仕事頑張って下さいと言った私に、また日本へ来ると返してくれました。
****
家に帰り、ザンザスさんから頂いた箱を開けました。中身は電話らしきものだ判明しました。説明書がついていましたが、……読めません。英語ではない言語で書かれています。勿論、日本語でもないです。これ、何語?なので放置です。とりあえず、普通の電話と違い、衛星かなんかでどこからでも連絡がとれるような携帯電話みたいなものです。たぶん。他にも部品がたくさん付属されていて…。凄い。でもザンザスさん、私は使い方がわかりません。あと、私の通学路、普通の携帯でもちゃんと電波入りますが……。これって高価なものですよね?下手にいじって壊れたら困ります。今度ザンザスさんに会ったときに返した方がいいんじゃないかと思って、そのまま仕舞ってあります。箱に入れたまま。
……まぁ、それだけなら、良かったのですが。
その数日後、とても豪華な振り袖一式が家に届きました。危うく餅を喉に詰まらせるかところでした。誰から送られてきたかは不明でしたが、私は勝手にザンザスさん以外ありえないと思いました。どうしよう、これ……。もらっていいんですか?来年着ろってことですか?素晴らしい着物が送られてきたのを知って、それまではザンザスさんの話題を軽く流していた父も、一度会わせろと言ってきます。そんなことを言われてもザンザスさんは今おそらくイタリアです。しばらくは無理です。っていうか、連絡手段がないです、我が父よ。
ともかく、説明が長くなりましたが、私は最近一人で登下校です。今までも登校は一人でしたが、下校も一人。なんだか寂しいですね。今日は休日ですけどね。と、思っているとピンポーンと家のインターホンが鳴りました。なんでしょうか?
……ちょ、いやいやいや!
家にはとても大きな赤いバラの花束が届きました。玄関に入るか入らないかくらいの大きさです。でかっ!メッセージカードにまたもや読めない言語で色々書かれていましたが。一つ読める単語がありました。Valentine。この花束もきっとザンザスさんですね。っていうかあの人以外、いませんよね。本当に。物贈りすぎ。ホワイトデーとか、向こうにはないでしょうが、私はどうしたらいいんですか。
メッセージカードはたぶん手書きなので、ザンザスさんが書いてくれたんだと思います。そうするとイタリア語ですよね。そのうちイタリア語辞典でも買おうと思ってます。そのうち。
「………(今日も繋がらねぇ!!)」
「……ねぇスクアーロ、ボスは一体誰に電話かけてんの?」
「知らねぇぞぉ。仕事関係じゃねぇのかぁ?」
「明らかに違うだろ。大体さ、ボスこっち戻ってから毎日掛けてんじゃん」
「まぁなぁ」
「しかも衛星携帯電話で」
「そうだなぁ」
「仕事するときは普通の電話だしね」
「だよなぁ」
「ほら、よっぽど電波入りにくいとこにいる人なのかもしれないわよ」
「えー……」
「……ジャングルとかかぁ?」
「はぁ?馬っ鹿じゃねぇの?」
「っ!このガキ……!」